天城の自然環境(上) 異変?姿変えた万二郎山頂付近

2011年10月20日

 伊豆半島の中心部に、どっしりと構える天城山系。伊豆の美しい自然景観をはじめ、豊かな温泉、おいしい水、そして多彩な山の幸や海の幸も、天城の恩恵によるものだ。しかし近年、天城に異変が起きている。3回にわたって天城の自然環境を考える。

097_01.jpg■高山性竹類が退化 複合的な原因指摘

 今、天城の自然はどうなっているのか。今月10日、天城高原ゴルフ場から天城の中心部である万二郎岳、万三郎岳を訪ねた。
  午前8時前、連休中日とあって登山口の駐車場には既に20台近くの車が止まっている。「練馬」「三河」など、ほとんどが県外ナンバー。神戸から来たという 60代の夫妻は「天城は初めて。百名山の一つなので前から登ってみたいと思っていた。どんな山なのか楽しみ」と、いそいそと登山口を後にした。
  「期待を裏切らなければよいが...」と願いつつ、こちらも身支度を整えて出発。入ってすぐ、先月の台風の影響か、根から倒れたヒノキが目に飛び込む。登 山道は土砂が流出し、深い堀状になっていたり、凸凹が激しく歩きにくい。周囲には根が剥(む)きだしになっていたり、立ち枯れた樹木も目立つ。
 097_02.jpg 万二郎へ樹林帯を登っていくと、突然、視界が開ける。2003年の台風で大規模な土砂崩れが起き、大きくガレた沢になっている。この爪痕は、麓からもはっきりと確認できる。山頂へのコースも、いくつか付け替えられた。
  万二郎山頂付近は、この10年で一変した。以前はスズタケの群落が広がっていたが、今は立ち枯れた樹木も目立ち、禿(は)げ山状態。クマザサの仲間である スズタケやアマギザサなどの高山性竹類は、同所に限らず天城全山で退化が著しい。シカの食害、テングス病、気象異変や土壌異変など、複合的な原因が指摘さ れている。
 万三郎への稜線は、シカが食べないキク科のシロヨメナの白い花とトリカブトの紫色の花が彩る。シロヨメナは、よほどシカの舌に合わないのか、遠笠山道路沿いでも大群落をつくっている。
  万三郎から涸沢分岐点に下るコースは、直に下る以前のコースが土砂崩れとシャクナゲ保護のため閉鎖され、5年ほど前に迂回(うかい)路が整備された。歩き やすいよう500段を超える丸太の階段が据えられたが、土砂の流出により、早くも丸太と丸太の間をまたぐような危険な箇所が目立つ。
■荒廃要因にシカ食害 樹木枯死し岩地化・砂漠化

097_03.jpg こうした天城の荒廃の要因とされるのがシカの食害。シカは1日に体重の1割近い4?6キロの植物を食べる。毒性の植物以外は何でも食べ、樹皮を剥(は)いで樹液をなめたり、柔らかい幹も食べる。樹皮を剥がされた樹木はやがて枯死する。
 こうして緑の山は岩地化・砂漠化し、保水能力が低下し、洪水や土砂災害の危険性が高まる。山にはアセビやシキミなどシカが食べない植物ばかりが残り、自然生態系への影響も大きい。
 県自然保護課によると、伊豆半島のニホンジカの生息数は、今年3月末で推定2万1000頭(前年比900頭減)。適正数は1平方キロメートルあたり3?5頭とされるが、伊豆は約26頭にも及ぶ。
  増え過ぎたシカ対策として、県は2004年度から計画的な捕獲事業を展開。しかし、ハンターの減少や高齢化により、捕獲数は年間目標数7000頭(管理捕 獲、有害捕獲、一般狩猟の合計)の7?8割にとどまる。増加を抑える一定の歯止めにはなっているが、繁殖力が強いシカの個体数は、さほど減少していない。
097_04.jpg  雌ジカは毎年5?6月に1頭ずつ出産し、個体数は4年で約2倍に増加するといわれる。しかも、伊豆は気候温暖で越冬が容易なことから、他地域よりも子ジカ の生存率は高い。県は「まだ多く生息し、今後雌ジカや子ジカが増える可能性もあるので、計画的に捕獲事業を実施し、適正数に近づけていきたい」としてい る。






 ■食肉加工施設で活用?伊豆市 学校給食利用や商品開発

 捕獲したシカの命を無駄にしないため伊豆市は今春、食肉加工施設「イズシカ問屋」を下船原に建設した。猟師が市内で捕獲した野生シカを1頭1万円以内で引き取り、加工した肉を市内4カ所の精肉店やフードセンターに卸している。
  初年度の取り扱い目標は300頭で、9月末まで半年間の実績は166頭。これまでの有害捕獲(市長の許可)と管理捕獲(知事の許可)に加え、これから一般 狩猟(11月15日?2月15日)も始まることから、目標の達成は十分に可能とみている。2年目は500頭、3年目は800頭が目標。
 担当の市農林水産課は「まだ初めの一歩を踏み出したばかり。ようやく加工の流れが見えてきたところで、運営は軌道に乗りつつある。市外のレストランなどからも引き合いがあり、今後は販路や消費の拡大を図っていきたい」と話す。
 伊豆市では、学校給食にシカ肉を取り入れる計画も進めている。市教委は本年度中の試験導入を目指し、栄養士がカレーやコロッケなど、シカ肉のおいしい料理を研究している。
 市内の飲食店でも、ハンバーガーやモッフルなど、シカ肉を使った商品開発の取り組みが始まっている。

(2011年10月16日 伊豆新聞掲載)