■登山者増え悪化に拍車
伊豆の母なる山「天城山」。百名山のひとつで首都圏に近く、一日で縦走可能な山として人気を集める。近年の自然・健康志向により中高年層の登山者が目立
ち、家族連れや山ガールに代表される若い人たちも多い。バスで訪れる団体もあるが、多くの人が山に入れば登山道は荒れ、それに拍車を掛けるひとつと名指し
されるのが老若男女の手にするストックだ。「天城の自然環境(下)」では、荒廃する登山道の問題を取り上げた。 (写真はいずれも万二郎、万三郎の登山道で撮影)
■丸太の階段無惨 端歩き植生踏みつけ
天城登山は伊東市側の天城高原ゴルフコース(場)からと、伊豆市の旧天城トンネル付近から入るのが主なコース。中でも登山者専用駐車場も整備され、車を降
りてすぐ登れる天城高原からが人気ルートだ。自生するシャクナゲが見頃を迎える5・6月や休日などは駐車場が満杯になることも度々ある。地元よりも首都圏
からの登山者が圧倒的に多い。 天城高原から万二郎岳(標高1299メートル)─万三郎岳(1405メートル)の周回、往復コースは定番。このため荒れた登山道も目に付く。
勾配のきつい場所は木ぐいを打ち込んで丸太を階段状にするなどの整備をしているが、土砂が流されて丸太が大きく露出したり、段差が大きくなったり、階段が
壊れたりして通りづらくなっている所も多い。登山者は、そんな場所は避けて脇を歩き、植生を踏み付ける。踏み跡が目印となり後続も歩くため登山道は徐々に
拡幅、バイパスになることもある。貴重な植物を失うほか、草木が枯死すると新たな土砂流出を生む。ロープを張って入り込まないようにしている場所もある。 登山道には樹木の根がむき出しになり、踏んで傷め付けられている場所も至る所にある。「浸食や植生を保護できる尾瀬にあるような木道(急斜面では木道階段)整備が理想」と自然団体関係者は話すが、費用がかさむなどで難しい面もある。
■ストックの弊害指摘 土掘り、土砂流出招く
登山道の荒廃を一層進める一つと、やり玉に挙げる人もいるのがストックである。欧州などから日本に入って来て20年ほどと言われるが、近年ブームで登山者
の多くが手にする。中高年層の登山者が増え、衰えた体を支える補助器具的に使う人のほか、「格好良い」と持つ人もいるようだ。 通常は先端部分に保護用のゴムキャップが付き、深く刺さらないようになっているがゴムを紛失したり、わざと取り除いたりするケースもあって登山道が荒れる一因になっているという。
このストックの弊害を指摘するのは、環境省の環境カウンセラーで自然公園指導員、日本山岳会会員の山口康裕さん(63)=伊東市鎌田=。「ストックがすべ
て悪いとは言わないが、なるべく使わない方が良い。膝の負担を減らすなどの効果はあるだろうが、自身の体でバランスを取ることによって筋力も付く。特に若
い人は必要ない。縦走路の脇に刺すことで植生破壊、登山道の拡幅、土壌流出につながる」と警鐘を鳴らす。
天城のハイキングガイドブックを何冊も出版、環境省の自然公園指導員で天城自然ガイドクラブ顧問の真辺征一郎さん(73)=清水町玉川=も「ストックはゴ
ムがないと尖(とが)った先で土を掘り、雨が降れば水がたまったり、土砂を流出させたりする。最近は使用する人が多いため影響も大きい」。また「縮めて
リュックに取り付け、転んだ際にストックが凶器となって自身や他人にけがを負わせるケースも何度か見ている」。 中には両手に持つダブルストック
派もいるが、山口さんは「これが本格的な登山スタイルと勘違いしているのではないか」と手厳しい。続けて「山岳雑誌でも、各山岳会でも、登山専門店でもス
トック使用の説明はほとんど行われていないのが現状。早急な対応が望まれ、山岳会で使用ガイドラインを決めるべき」と訴える。
■将来的に入山料徴収を
天城の登山道管理はルートごとに環境省や県などが行っているが、登山者や自然災害の増加などで傷むスピードが速まっている上に経費の問題もあり、整備がなかなか進んでいないのが実態だ。土砂崩れなどで壊れたまま通行止めになっている場所もある。
荒廃を見かねた伊東市のボーイスカウトは、荒れた場所に板の橋を設けたり、麻布を手縫いして麻袋を作り、土砂などを入れて掘れた場所に設置するなどの活動
もしているが、人手が足りず整備は追い付いていない。2000(平成12)年には伊豆新世紀創造祭の一環で山口さんらが呼び掛け、登山道を修復するために
入山者が石を運ぶ「天城山ひとり一石運動」をスタートさせた。一時の盛り上がりはないものの小規模ながら仲間うちでの活動は続いている。 山口さ
んや真辺さんは富士山ほどでないにしろ、天城山もシャクナゲの開花期はオーバーユース(山に入りすぎ)という。国や県などは財政事情が厳しく、手厚い管
理、整備は難しくなっていることもあり、将来的な課題と前置きした上で「入山料を徴収することも必要」と提言する。 山口さんは「天城の自然を後
世に残し、伝えていくことは今を生きる人たちの責任でもある。ジオパークの世界認定に向けた動きもあり、天城は伊豆にとって大きな財産。狩野川の生き物、
豊かな海(漁業)を守ることにもつながる。入山料を取ることで自覚も芽生える。伊豆が先鞭をつけたい」。真辺さんは「天城自然ガイドクラブでは10人以下
で1日・1万5千円の有料ガイドを行っていて団体、夫婦など多くの利用がある」。 身銭を切ってでも自然を楽しみたいという人も増えてきている。ただ現状では、万人の同意を得て入山料を徴収するにはクリアしなければならないハードルがあまりにも多い。
■実数把握始める 天城高原にカウンター
天城に年間、何人ぐらいが入山しているのか正確なデータはない。だが、年々増加の一途であることは間違いない。環境省は今年6月に八丁池、伊豆市は8月に天城高原ゴルフコース近くに登山者カウンターを設置、入山者数把握に乗り出した。
■使用は「適正に」 木製階段撤去の方向
▽県観光政策課施設班長 東 誠司さん(48)
ストックの問題は把握しており、県としても自然保護課で作っているパンフレットにゴムキャップを付けるお願い文を掲載するなど指導している。我々も現場な
どで啓発活動をすることがある。ただ最近は中高年層の登山者が多く、特に下りではストックは転倒防止などの効果が期待できる。冬、凍結するような場所では
逆にゴムキャップがあると危険なケースもあり、適正に使うことが大事。 県は登山道の整備に近年、年間2000?3000万円(標識設置なども含
む)掛けている。天城で県は万二郎--万三郎の周回コースを管理。登山者が木の根を踏み付けるなど痛々しい場所もあるが、被害を限定的にする(拡大しな
い)ためロープを張るなどの対策も講じている。木道設置が最良の方法だが費用がかかる。木製階段は(土砂が削れ)ハードルのようになっている場所では撤去
の方向。自然素材の麻袋などに代えていきたい。
(2011年12月11日 伊豆新聞掲載)
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